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東京地方裁判所 平成10年(ワ)6610号 判決

原告 久岡産業有限会社

右代表者代表取締役 久岡ゆかり

右訴訟代理人弁護士 野間昭男

同 原口健

同 土井智雄

同 志賀正浩

右訴訟復代理人弁護士 松本健吾

被告 宮沢輝男

右訴訟代理人弁護士 平沼高明

同 加々美光子

同 小西貞行

同 平沼直人

同 水谷裕美

右訴訟復代理人弁護士 福岡總一郎

主文

一  被告は、原告に対し、三九四六万二二七八円及びこれに対する平成一〇年四月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

被告は、原告に対し、四〇七一万八七九〇円及び平成一〇年四月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、税理士である被告との間で顧問契約を締結したとする原告が、被告が株式の受取配当金について益金不算入の措置を講じなかったこと及び被告が株式譲渡を積極的に推進したことによって、税務上の損害を被ったと主張して、損害の賠償及びそれに対する訴状送達日の翌日である平成一〇年四月一三日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を請求する事案である。

二  前提事実(争いのない事実及び掲記の証拠と弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

(なお、本判決において、租税法規に関しては当時のものを示す。)

1(一)  原告は、コンピューター等の販売等を目的とする有限会社であり(出資金五〇〇万円、平成元年八月四日設立)、コンピューター等のレンタル業を目的とするカテナレンタルシステム株式会社(以下「カテナレンタル」という。)の株主である。また、久岡和久 (以下「和久」という。)及び久岡ゆかり(以下「ゆかり」という。)は、原告及びカテナレンタルの社員又は株主であり、和久は、平成七年五月二二日まで原告の代表取締役であり、ゆかりは、同日から原告の代表取締役である。

(甲第一号証の一、乙第二〇号証、弁論の全趣旨)

(二)  被告は、東京地方税理士会に所属する税理士である。

2  原告は、平成六年三月期以降所轄税務署長の承認を受けて青色申告を行っているが、被告は、原告の第六期(平成七年三月期)及び第七期(平成八年三月期)における法人税申告業務等を行うに際し、原告保有のカテナレンタル株式が保有割合二五パーセント以上の法人税法二三条における特定株式に該当するため、右株式に係る受取配当金について益金不算入の措置を講ずべきであったにもかかわらず、これを行うことなく益金に計上し、税務上の処理を行った(なお、第六期及び第七期の実効税率は五八・八九パーセントであった。)。

ところで、原告の第六期、第七期、第八期(平成九年三月期)の受取配当金は、それぞれ七八一万二五〇〇円、九七五万円、二六〇万円であり、第六期、第七期、第八期の負債利子の額は、それぞれ一一八万三三九七円、六〇万四四四〇円、五二万三六六七円であった。

3  原告は、平成八年三月二五日、原告が保有するカテナレンタル株式七八〇株のうち、二三〇株を和久に、三〇株をゆかりに譲渡した(甲第一四、第一五号証)。

その結果、原告は、五七二〇万円の有価証券売却益を計上し、これに対して三三六八万五〇八〇円の法人税等が課され、原告はこれを納税することを余儀なくされた。

三  争点

1  原告と被告との間における税理士としての顧問契約の有無

2  第六期及び第七期の損害額

3  第八期(平成九年三月期)の損害の発生の有無

4  原告の株式譲渡に関する被告の義務違反の有無

四  争点に関する当事者の主張

1  争点1(原告と被告との間における税理士としての顧問契約の有無)について

(一) 原告の主張

(1)  原告、和久、ゆかり及びカテナレンタルは、平成五年二月頃、被告との間で、税務、会計の指導助言を内容とする顧問契約を締結した。原告は実質的に休眠会社であったため、契約形式上、顧問契約自体はカテナレンタルとの間で締結し、グループ全体の税務、会計指導に関する顧問料をカテナレンタルからの顧問料に含ませることを合意した。

(2)  カテナレンタルの税務、会計指導業務については、基本的にカテナレンタルの株主であるカテナ株式会社の顧問税理士である西原宏一税理士(以下「西原税理士」という。)に依頼することになっていたので、被告は、顧問契約当時、カテナレンタルの顧問業務のみを行うことを期待されていなかった。

(3)  被告にカテナレンタルの顧問業務のみを行うことが期待されていたとするならば、一か月一〇万円の報酬は高額にすぎるし、殊に、被告が独立間もない税理士であったことを考えると高額すぎる。

(4)  被告は、顧問契約締結後、株価の算定、契約書の作成、議事録の作成、持株関係の処理を含む資本政策上の問題など、原告の経営事項全般、原告と久岡夫妻に関する同族会社の留保金課税の問題等広くグループ全体の指導を行った。

(一) 被告の主張

(1)  被告は、原告に関しては、総勘定元帳、決算書、確定申告書の作成、法人税申告事務の範囲で委任を受けたにすぎず、税務コンサルタント等については委任を受けていなかった。被告は、原告から確定申告後に報酬として一七万七一六〇円の支払を受けたのみであり、右業務の報酬としては極めて低廉であった。

(2)  被告が平成五年二月一日の顧問契約の締結に際して聴取りを行った事項は、そのほとんどが原告ではなくカテナレンタルに関する事項であり、原告に関する事項は、会社の所在、出資者等の基本的な事項のみであった。

(3)  被告は、カテナレンタルとの間で、平成五年二月一日に顧問契約を締結したが、原告との関係では、年度末の帳簿作成と税務申告を個別に依頼されていたにすぎない。カテナレンタルの相談に付随して原告に関する相談が持ち上がってきたときに回答したのは好意に基づき、原告の議事録や契約書等の作成は善意で行っていたものである。

2  争点2 (第六期及び第七期の損害額)について

(一) 原告の主張

(1)  被告が受取配当金の益金算入の過誤を起こさなければ、欠損金を黒字決算の第七期に繰り越す(法人税法五七条)ことにより、当然に第七期の納付法人税額(事業税額及び法人住民税額を含む。)を、実際の支払額よりも少なくすることができた。

また、被告が受取配当金の益金算入の過誤を起こさなければ、第七期の黒字を減らすことにより、第七期の納付法人税額を、当然に実際の支払額よりも少なくすることができた。

(2)  負債利子は、法人税法施行令二二条三項二号及び 三号に定める金融機関からの長期借入金の特定利子に該当するから、受取配当金不算入にあたり受取配当金から控除されるべき負債利子には該当しない。

(3)  原告の借入金は、原告がオリックス株式会社から事業資金を借り入れるにあたり、便宜上、一旦和久が借り入れてこれを原告に貸し付けたものであり、被告もこの事実を十分に了解していた。したがって、原告の借入金は、実質的には金融機関からの長期借入金に該当し、その利子は特定利子として受取配当金から控除されるべきではない。

(二) 被告の主張

原告の借入金は、和久個人からの借入金であり、「特定利子の元本の負債の額」には当たらない。したがって、原告の借入金の利息は特定利子ではないので、負債利子の控除の措置を講ずる必要がある(法人税法二三条三項)。

3  争点3 (第八期の損害の発生の有無)について

(一) 原告の主張

(1)  被告が、負債利子を受取配当金の益金不算入にあたり金融機関からの長期借入金の特定利子と判断の上控除していなければ、負債利子相当額の欠損金を黒字決算の第七期に繰り戻す(法人税法八一条)ことにより、第七期の納付法人税額は、当然に実際の支払額よりも少なくすることができた。

(2)  原告は、第七期、第八期以降営業の全部を相当期間休止しており、第八期の欠損金額について繰越しが困難な状況にあった。よって、法人税法八一条四項による繰戻還付が例外的に認められる(租税特別措置法六六条の一四ただし書、法人税法施行令一五六条)。

(3)  原告はカテナレンタルからの株式を関連会社の関係維持と資本政策上保有していたにすぎず、投資目的で第三者的関係にある会社の株式を継続して保有する「投資」とは全く場合を異にしている。原告にかかる株式保有及び配当金を受領する行為があるとしても営業を休止したことに変わりはない。

(二) 被告の主張

(1)  租税特別措置法六六条の一四によって原告が第八期について繰戻しによる還付をすることはそもそも不可能であった。

(2)  負債利子は、金融機関からの長期借入金の特定利子には該当しないから、受取配当金の益金不算入にあたり受取配当金から負債利子を控除したことにつき被告に税務過誤はない。

(3)  法人税法施行令一五六条の「営業の全部の相当期間の休止」とは、事業の閉鎖等に類する事態によって残財の販売等の行為以外の商行為の全部を一定期間休止する場合をいうものと解され、原告の定款には目的として「投資業」が掲げられているところ、原告は第八期においてもカテナレンタルに対し投資を継続し、受取配当金を計上した。したがって、原告は、「営業の全部の相当期間の休止」をしておらず、租税特別措置法六六条の一四ただし書の適用はなく、繰戻還付の措置をとることはできない。

4  争点4 (原告の株式譲渡に関する被告の義務違反の有無)について

(一) 原告の主張

(1)  当時の原告代表者である和久が被告に対して、カテナレンタルから原告への受取配当金について二重課税を生ずる結果をめぐって、他に有利な対応策がないかを被告に相談したところ、被告は、二重課税を受けることをあたかも当然の前提として、「会社に保有している限り課税が発生しますよ。これを回避するため株式については個人で持っていた方が得策です。」などと助言し、自ら文献を収集し赤線を付してコピーを原告に送付するなどした。その後も、被告はカテナレンタルの株式をめぐる話合いにおいて、株式を個人所有とすべきであるとの見解を述べた。

(2)  節税目的のため有用な税務会計処理の指導、助言を依頼されている被告としては、当然原告に対し右目的に沿った有効、適切な助言、指導を行うべき義務があったのに、被告の助言した株式譲渡は、そもそも二重課税の回避策として機能するものではなく、かえって有価証券売却益に対する法人税課税を生じさせるものであった。

(3)  さらに、被告は、積極的に株式売買契約書、取締役会議事録、金銭消費貸借契約書等の関連書類を作成した。

(二) 被告の主張

(1)  原告が保有するカテナレンタルの株式を和久及びゆかりに対し譲渡する件については、被告は、和久から依頼を受けて、その利用目的を知らされないまま、カテナレンタル株式の一株当たりの資産の概算額を算出して、原告の取締役会議事録及び金銭消費貸借契約証書を作成したにすぎず、被告が株式譲渡を積極的に推進した事実はない。被告が本件の株式譲渡に関し和久から初めて相談を受けたのは平成八年四月に入ってからのことであり、その時点においては、本件の株式譲渡は既定路線であった。

(2)  前記1に関する被告の主張のとおり、被告は、原告に関しては、総勘定元帳、決算書、確定申告書の作成や法人税申告事務の範囲で委任を受けていたにすぎず、税務のコンサルタント等については委任を受けていなかった。

(3)  被告は、和久から本件株式譲渡に関する相談を受けた際に、相当高額の法人税が賦課されるべきことを告げて注意を喚起した。

(4)  原告が本件の株式譲渡を行った理由は、二重課税回避にはなく、カテナレンタルが店頭公開した際に和久がいわゆる創業者利益を得るためであった。

(5)  原告は、カテナレンタルの株式公開を目前に控え、株式の譲渡を予定していたのであるから、原告の株式譲渡が早晩行われる蓋然性が極めて高く、原告に損害は発生していない。

第三争点に対する判断

一  証拠(甲第二号証の一、第六ないし第八号証、第一四ないし第二六号証、第二八ないし第三〇号証、乙第一、第二号証、第三号証の一、二、第四ないし第八号証、第九号証の一、二、第一三号証の一、第一五号証、第二〇ないし第二二号証、第二四号証、第二六号証並びに証人久岡和久の証言及び被告本人尋問の結果。ただし、乙第五号証、第七号証、第一三号証の一、第二二号証、第二六号証及び被告本人尋問の結果のうち後記採用しない部分は除く。)と弁論の全趣旨に前記第二の二の前提事実を総合すれば、以下の事実が認められ、乙第五号証、第七号証、第一三号証の一、第二二号証、第二六号証及び被告本人尋問の結果のうち、この認定に反する部分は採用することができない。

1(一)  原告は、平成元年に、コンピューター等の販売等を目的として設立された有限会社であるが、登記の「目的」の欄には、「7投資業」との記載がある。

また、原告は、カテナレンタルに対して、カテナレンタルの店頭登録によるキャピタルゲインを目的として投資を行っており、原告にとっては、原告自身の利益を確保するために、カテナレンタルへの指導等が重要な業務の一つとなっている。

(二)  カテナレンタルは、平成元年に、コンピューター等のレンタルを業とする会社として設立され、その株式の半数ずつがカテナ株式会社と原告により保有されてきたが、平成四年頃には、その配当可能利益が増大してその株式の価値が高まった。

そこで、カテナレンタルの株主である原告への利益配当金に対する課税の問題(二重課税の問題)とカテナレンタルに留保された配当可能利益に対する課税の問題(同族会社への留保金課税の問題)が発生した。

2  当時原告及びカテナレンタルの代表取締役であった和久は、右の問題を含む原告、カテナレンタル等の税務会計に関する問題を円滑に処理するために、カテナ株式会社から紹介された西原税理士(同税理士は、カテナ株式会社グループの顧問税理士として、同会社グループの税理事務を担当していた。)の外にも税理士が必要であると考え、平成五年二月頃、西原税理士及び被告の二人の税理士に税務会計業務を依頼し、それぞれと税理士としての顧問契約を締結した。(なお、西原税理士については、その後、平成五年一一月に顧問契約が終了している。また、乙第六号証の委嘱契約書第二条には、被告は、会計事務及び税務事務を有効適切に援助指導すること、委嘱者の業務に関して通常生じる税理士業務の事項についてこれを処理し及び必要書類を作成すること、税務官公署等の連絡にあたることが遂行すべき義務として掲げられている。)

顧問契約の内容は、被告については、原告に関する税務、会計の指導業務及び記帳、決算書作成業務、和久及びゆかりの保有するカテナレンタルの株式に関連する税務、会計の指導業務、カテナレンタルの決算書作成業務等であり、西原税理士については、カテナレンタルに関する税務、会計の指導業務等であった。

そして、被告の報酬について、原告に関する税務、会計の指導業務、和久及びゆかりに関する税務、会計の指導業務等に関しては、一か月一〇万円の報酬が支払われ、原告の記帳、決算書作成業務及びカテナレンタルの決算書作成業務等に関しては、それぞれから別途報酬が支払われることとされ、現実に別途に支払われた。

被告は、ほとんどの業務委嘱者との間で税理士としての顧問契約を締結しており、特に決算書、確定申告書等の書面作成事務だけを分別して引き受けることはしていないが、顧問先の総数は、ほぼ一三〇件程度に達し、その顧問料は、平均すると、一件あたり四、五万円であり、被告が顧問契約を締結する際に設定する顧問料は、東京地方税理士会の顧問報酬基準の上限額と比較するとはるかに少なかった。

3  被告との顧問契約締結後、和久は、被告に対して、カテナレンタルに関して、同族会社への留保金課税の対応策、持ち株関係の処理等の問題に関する相談をして、被告から指導を受け、被告は、決算書の作成や税務申告等の作業を行った。被告は、和久に対して、カテナレンタルに対する同族会社への留保金課税の対応策として、原告が保有する株式のうち一株を被告に譲渡することを提案したこともあった。

また、原告に関して、被告は、当初原告は青色申告の取消しを受けていたため過去に遡って決算報告書等を作成し、再度青色申告を可能とすべく税務上の諸届出を整備したほか、伝票記帳をしていない原告から提出された領収書等に基づいて総勘定元帳、財務諸表等を作成して税務申告を行い、さらに取引に関する役員会議事録、契約書の作成もした。そのほかにも、被告は、和久に対して、原告の利益に見合う役員報酬及び損害保険料の費用を出すことにより税務会計上の利益金をなくすことができる旨の指導、助言もした。

4  原告の第六期、第七期、第八期における受取配当金は、それぞれ七八一万二五〇〇円、九七五万円、二六〇万円であり、右の各期の負債利子の額は、それぞれ一一八万三三九七円、六〇万四四四〇円、五二万三六六七円であった。

また、原告が税務署長に提出した法人税確定申告書において、第六期の原告の借入金の貸主として、和久個人が明記されている。

被告は、原告の第六期及び第七期の確定申告においては、受取配当金についての益金不算入の措置を講じなかったが、第八期の確定申告においては、受取配当金の益金不算入の措置を講じた。

5  和久は、被告に対して、平成五年六月頃、カテナレンタルの株式公開構想を打ち明け、その際に、カテナレンタルから原告に対する利益配当金に関して二重課税という結果について有利な対応策がないかどうかを相談した(なお、結局、カテナレンタルの株式公開は行われなかった。)。

被告は、会社として保有している限り課税が発生するため、二重課税を回避するために株式については個人で持っていた方が得策であるなどと助言し、今後は関連情報の収集にあたることを約束した。その後、被告は、和久に対して、文献を収集して自ら赤線を付してコピーを送付するなど措置をとった。

しかし、その頃、カテナレンタルの株式の増資をめぐってカテナ株式会社との間で双方の思惑が異なり膠着状態に陥っていたことから、和久は、被告と株式移転について具体的対応を話し合うまでには至らなかった。

その後も、和久は、折に触れて、二重課税を回避するための方策について被告に相談したが、被告は、そのたびごとに、会社で保有している限り仕方がない、個人で所有した方がよいと繰り返し述べるのみで、和久から二重課税を回避するそのほかの方法がないかを尋ねられても、ありません、これは仕方がないと答えていた。

6  被告の指導、助言を受けて、和久は、原告がカテナレンタルの株式を保有し続けた場合には二重課税を避けることができないが、和久ら個人の保有に移したときはこれを避けることができると誤信した結果、平成八年二月後半頃、原告保有のカテナレンタル株式を和久に二三〇株、ゆかりに三〇株移転する方針を固め、譲渡価格の参考とするために被告に対してカテナレンタル株式の株価を照会した。

これに対して、被告は、カテナレンタルの株価を二七万八一二五円と算定して、同年三月一日のファクシミリ及び同月四日付書面により回答した。被告は、前もって和久から聞かされていたため、この回答を行った時点で、二重課税を回避する目的で、原告が株式を和久らに譲渡することを計画していることを認識していた。

原告と和久及びゆかりとの間の株式に関する売買契約が同年三月二五日に締結され、被告によって、その株式の売買契約に関する原告の取締役会議事録、原告と和久、ゆかり間の金銭消費貸借契約書等の関連書類が作成された。

本件株式譲渡の結果、原告は五七二〇万円の有価証券売却益を計上し、これに対して三三六八万五〇八〇円の法人税等が課された。

二  争点1(原告と被告との間における税理士としての顧問契約の有無)について検討する。

1  前記一の認定事実によれば、被告は、一〇〇件を超える業務委嘱者のほとんどとの間で、税理士としての顧問契約を締結しており、特別に決算書、確定申告書等の書面作成事務だけを取り出しては引き受けていないところ、原告の平成六年三月期以降の決算書、確定申告書等の書面作成事務を担当してきたこと、平成五年二月に、被告のほかに西原税理士との間においても税理士としての顧問契約が締結され、西原税理士にはカテナレンタルに関する税務、会計の指導業務が、被告には原告に関する税務、会計の指導業務等が依頼されたこと、被告は、通常月額一件四、五万円の報酬で税理士としての顧問契約に応じているのに、本件では一か月一〇万円という通常の報酬額の二倍程度に該当する報酬に加えて、原告の記帳、決算書作成業務等に関し別途原告名義で報酬の支払を受けていること、和久は、契約締結後、被告に対して、カテナレンタルに関する課税上の相談をして指導を受けたばかりでなく、原告の課税上の問題についても相談し、被告は、原告の書類作成に加えて、原告の税務相談にも応じ、また、和久に対し、原告の留保金課税対策として被告に一株を譲ることを働きかけ、役員報酬等の費用計上により利益金をなくすことを助言するなど節税対策の指導助言をし、さらに、原告に関する取締役会議事録、金銭消費貸借契約書等の書類を作成して原告の税務を補助する事務も担当していることが明らかにされてる。

したがって、平成五年二月一日、被告は、カテナレンタルのみならず原告との間においても、税理士としての顧問契約を締結したと認めることができる。

2  もっとも、被告は、本人尋問及び乙第五号証、第七号証、第二二号証、第二六号証の陳述書において、被告は、カテナレンタルとの間で顧問契約を締結したにすぎず、原告と被告との間における顧問契約はなく、原告に関しては、単に帳簿、決算書等の作成事務を依頼されたにすぎないと供述しており、右の供述に沿うように、同年二月一日付の乙第六号証の委嘱者の欄には「カテナレンタルシステム株式会社」との記載しか存在していない。

しかし、このような契約書の体裁となった理由について、和久は、甲第二六号証、第二八号証、証人尋問において、原告と被告との間でも税理士としての顧問契約を交わすことの合意がされたが、原告は、実質的、資金的に赤字の会社であったから、利益の上がっていたカテナレンタルに対して顧問料を請求してもらうため、委嘱者欄にカテナレンタルの名を明記したにすぎないと説明しているが、右の説明は、合理的で首肯するに足り、採用することができるから、乙第六号証の記載を理由にして被告の右の供述を正当視することはできない。

そして、前述の被告の業務委嘱者との契約形態と対比した被告による原告関係の税務事務、指導事務の内容、西原税理士の顧問契約の内容、本件の顧問契約の顧問料と被告の通常の顧問料との関係等と対照すると、被告の供述は採用することができず、他に前記1の認定を左右するに足りる証拠はない。

三  争点2(第六期及び第七期の損害額)について検討する。

1  前記一の認定事実によれば、税務署長に提出した原告の法人税確定申告書において、原告の借入金の貸主が和久個人と掲記されていることが認められる。

したがって、原告の借入金の利息は、法人税法施行令二二条三項二号及び 三号の金融機関からの長期借入金には該当せず、特定利子ではないから、被告は、原告の顧問税理士として、これについて負債利子の控除の措置を講ずる義務があったというべきである。

2  そこで、原告の被った損害額を算定してみると、第六期については、受取配当金益金算入額が受取配当金額七八一万二五〇〇円から負債利子一一八万三三九七円を控除した六六二万九一〇三円であり、これに第七期の実効税率五八・八九パーセントを乗じた額三九〇万三八七八円から、配当に対する源泉所得税の税額控除額である七八一万二五〇〇円の二割相当額一五六万二五〇〇円を控除した二三四万一三七八円となる。

また、第七期については、受取配当金益金算入額が受取配当金額九七五万円から負債利子六〇万四四四〇円を控除した九一四万五五六〇円であり、これに第七期の実効税率五八・八九パーセントを乗じた額五三八万五八二〇円から、配当に対する源泉所得税の税額控除額である九七五万円の二割相当額一九五万円を控除した三四三万五八二〇円が損害額となる。

3  この点について、原告は、原告の借入金は、原告がオリックス株式会社から事業資金を借り入れるにあたり、便宜上、一旦和久が借り入れたにすぎず、実質的には金融機関からの長期借入金に該当すると主張する。

しかし、前述のように、原告の法人税確定申告書において、借入金の貸主は久岡和久個人と明記されており、原告に対する貸主は、和久と認めるべきであって、原告の主張には理由がない。

四  争点3(第八期の損害の発生の有無)について検討する。

1  前記三における検討の結果と前記一の認定事実によれば、被告は、原告の第八期の確定申告において、受取配当金の益金不算入の措置を講じているが、その原告の借入金の貸主は和久個人であることが認められるから、この借入金に係る負債利子が金融機関からの長期借入金の特定利子に該当する余地はない。

2  そして、前記一の認定事実によれば、原告の登記の「目的」欄には、「投資業」が掲げられており、原告がカテナレンタルに対して投資を行っているのは、カテナレンタルの店頭登録によるキャピタルゲインを一つの目的とするものであり、そのためカテナレンタルへの指導等が原告の重要な業務の一つであることが認められる。

そして、甲第二九号証によっても、原告が第八期にカテナレンタルに対する投資を休止したとは認めるには足りず、他にこの事実を認めるに足りる証拠はない。

そうすると、租税特別措置法六六条の一四ただし書の適用により繰戻還付が認められる場合に該当するとの証明はないというべきである。

3  したがって、原告に損害が発生したと認定することはできない。

五  争点4(原告の株式譲渡に関する被告の義務違反の有無)について検討する。

1  前記二における検討の結果と前記一の認定事実によれば、被告は、本件の税理士としての顧問契約をカテナレンタルのみならず原告との間においても締結し、原告に対しても税務会計事務を有効適切に助言、指導すべきであり、殊に原告代表者の和久から二重課税を回避する方法についてたびたび相談され、原告が株式を和久らに譲渡することを計画していることを告げられたのであるから、原告に対し、節税できるように有用な税務会計処理の指導、助言を行い、原告に不必要かつ過大な税金納付義務が発生しないように配慮すべき善良な管理者としての注意義務を負っていたというべきである。

そして、原告から和久及びゆかりにカテナレンタルの株式を譲渡すれば、原告に不要な有価証券売却益を発生させて多額の法人税等の納付義務が発生することは、税理士であれば容易に予見できたことに属するということができる。

ところが、被告は、原告に対し、顧問契約に基づく税理士としての注意義務に反し、的確な助言、指導等を怠った過失により、原告に多額の法人税の納税義務を発生させたということができる。

以上によれば、原告の株式譲渡に関して被告の顧問税理士としての義務違反が認められ、被告の義務違反と原告の損害発生の間の因果関係も認められる。

2(一)  この点について、被告は、乙第一三号証の一、第二二号証、第二四号証、本人尋問において、被告は、原告から和久らに本件株式譲渡が行われた後の平成八年四月中旬になって初めて和久から告げられて知ったにすぎないし、しかも、被告は、その話しを聞いた際には、多額の法人税がかかることを和久に注意したと供述する。

しかし、前述のように、そもそも、和久は、二重課税の問題を円滑に処理するために被告との間で顧問契約を締結するに至り、被告に対し税務の専門家としての適切な指導助言を期待し、被告に対して、平成五年六月以降、継続して二重課税を回避する方策がないかを尋ねており、その後は被告も、文献を収集して和久に送付するなど措置をとっていること、被告は、平成八年三月初旬にカテナレンタルの一株あたりの株価についての報告書を提出した時点で、原告が株式を和久らに譲渡することを計画していることを認識していたことが認められること、前記一冒頭掲記の前掲各証拠殊に甲第三〇号証、乙第一号証、証人久岡和久の証言と対比して、被告の右の供述は信用できない。

(二)  また、被告は、原告が本件の株式譲渡を行った理由は、カテナレンタルが店頭公開した際に、和久がいわゆる創業者利益を得るためであると主張する。

しかし、前記認定事実によれば、原告が本件の株式譲渡をしたのは、被告から原告が株式を保有し続けた場合に二重課税が避けられないが、個人で保有すれば避けられると説明されて指導されたため、そのように誤信したことから、専ら二重課税を避けることだけを目的としたことが明らかであり、現実にはカテナレンタルは店頭公開していないことなどの事情に照らして鑑みると、被告の主張を採用することはできない。

六  損害額について

原告は、被告が益金不算入を怠ったために、第六期において二三四万一三七八円、第七期において三四三万五八二〇円の損害を被ったことが認められ、被告が原告の株式譲渡に関して適切な指導助言を怠ったために、三三六八万五〇八〇円の損害を被ったことが認められる。

したがって、原告の被った損害額は、合計三九四六万二二七八円である。

七  以上によれば、原告の請求は、三九四六万二二七八円及びこれに対する本件訴状送達日の翌日である平成一〇年四月一三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民訴法六一条、六四条を、仮執行の宣言について同法二五九条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 成田喜達 裁判官 高宮健二 裁判官 阿閉正則)

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